スウェーデン王立工科大学(KTH Royal Institute of Technology)と学術交流
2026/03/17掲載
ダイバーシティ推進センターの加野泉准教授が、2026年3月5日~9日にスウェーデン王立工科大学(KTH Royal Institute of Technology)を訪問し、大学のダイバーシティ推進組織である Equality Office および研究拠点 Inspire Lab の関係者と学術交流を行いました。本訪問では、工科大学におけるジェンダー平等推進の制度設計や、ジェンダーの視点を取り入れた技術研究の展開について意見交換を行いました。
KTH Equality Office との意見交換では、KTHにおけるジェンダー平等・多様性・平等な条件(JML:Gender Equality, Diversity and Equal Conditions)の推進体制や最新データ、制度環境について説明を受けました。KTHではJMLを大学の主要な運営プロセスに統合しており、採用・昇進、教育・研究のフォローアップ、将来の教員育成、学生生活・学習環境などの中核的な活動にジェンダー平等の視点を組み込んでいます。Equality Officeはこうした取り組みを全学的に調整・支援する役割を担っており、制度と文化の両面から継続的な改善を進めています。最新のデータでは、学生に占める女性比率は約35%、教授では約24%となっており、長期的には改善が見られる一方、工学分野における女性比率の向上や研究者の定着などが課題として共有されました。また、採用・昇進委員会への研修や学生向けのハラスメント防止教育など、大学全体でジェンダー平等を推進する具体的な取り組みについても紹介がありました。
KTH:Equality Office Klara Folkesson氏
続いて訪問した Inspire Lab は、性と生殖に関する健康(SRHR)、包摂的なモビリティやインフラ設計、ジェンダーに基づく暴力(GBV)への技術的アプローチなどをテーマとした研究を推進する拠点です。活動についての説明を受けるとともに、国際女性デーにちなんで開催された2回のブレックファストセミナーにも参加しました。ブレックファストセミナーは、早朝に開催され、朝食をとりながら研究者同士の分野横断的な対話を促す場として位置づけられており、インクルーシブ・テクノロジーの実践的な展開を支える取り組みとなっています。

3月6日のブレックファストセミナーでは、Laura Marimon Giovannetti氏よりオリンピックのセーリング競技における艇種や装備をジェンダーの観点から再評価する研究が紹介されました。現状では多くの艇が男性中心の設計を前提としており、女性アスリートの身体特性と適合しない場合があることが指摘されています。本研究では、女性アスリートを中心に据えた設計評価を通じて、多様な身体特性に対応可能な艇の選定や設計改善の提案を行い、将来の競技用装備のあり方に示唆を与えることを目指しています。


3月9日のセミナーでは、Éva Székely氏より、音声の知覚における無意識のジェンダーバイアスに着目した研究が紹介されました。同一の発話内容であっても、話者の性別によって評価が異なる傾向があることを踏まえ、聞き手側の認知を変えるアプローチが提案されています。音声合成技術を活用し、声の特徴を操作した実験環境を構築することで、より包摂的なコミュニケーションの実現を目指す研究です。
意見交換では、工学分野におけるジェンダー視点の導入の可能性について議論が行われ、加野准教授からは日本の製造現場におけるジェンダー視点を取り入れたカイゼンの事例が紹介されました。これらの事例をもとに、より包摂的な技術の社会実装の可能性について活発な意見交換が行われました。

KTH Inspire Lab Pia Höök氏、Erika Blomstrand氏と
今回の訪問を通じて、大学の制度運営と研究活動の双方においてジェンダー平等の視点を組み込む取り組みについて理解を深めることができました。今後も工学分野のダイバーシティ推進に関わる学術交流を継続していく予定です。
